当院では患者さんの指導の基本は「ゆるやかな糖質制限」です。ごく単純にいえば「一食あたりの糖質量が40g程度」ということになります。どうしてその量なのかという理由はいくつかあります。
1)糖質量をを1日20g以下に絞るいわゆる「スーパー糖質制限」で長続きする人は比較的少ない。マジョリティを巻き込んでいくためには適当な糖質の量。取り組む側も、指導する側も楽。
2)この量の糖質を摂っても蛋白と脂質を必要量しっかり摂取していれば糖質制限のメリットを十分享受できる。
などが主なものです。
「理論的な安全性などは大丈夫なの?」とご心配の方のためにピッタリな調査研究があります。以下の内容をフェイスブックに投稿したところ沢山の質問を頂きました。皆様の関心の高さがうかがえますね。
【ゆるやかな糖質制限のメリット ~DIRECT試験から~】
ご存知の方も多いかと思いますが、糖質制限食に関する有名なRCT(無作為ランダム化試験)研究であるDIRECT試験についてお話したいと思います。
出典は The New England Journal of Medicine で医学雑誌としては世界最高峰です。NatureやScienceと同格とみなされています。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0708681
※RCTとは、調査が不正確になりそうな要素を出来るだけ排除して行う研究のことです。たとえば薬の効きめを調べるときには本物のクスリとニセ薬を使って比較しますが、飲む人が「これは本物だ」と知っているとそれだけで「効きそうだ」と思い込んで「効いてしまう」ということが起きます。ニセ薬と知っていると効果を評価する医師は「どうせ効かないよ」と思って診察しますので診断が正確にできない恐れがあります。ですから本物かニセ薬かは服用するヒトも、評価する医師も知らない状態でないと具合が悪いのです。
この試験では調査対象を3つのグループに分けて比較しています。各グループは平均BMIが約31、8割が男性ということですので日本人に当てはめると結構肥満体型です。
1)低脂肪グループ
♂1800kcal、♀1500kcal/日のカロリー制限、脂質3割以下、飽和脂肪酸10%以下、コレステロール300mg/日以下
2)地中海食グループ
♂1800kcal、♀1500kcal/日のカロリー制限、脂質35%以下を目標、30~45gのオリーブオイル、20g以下のナッツ
3)低糖質食グループ
当初2ヶ月は1日20gの糖質、維持期には1日120gに徐々に増加させる。摂取カロリー、タンパク、脂質に制限はない。
まさに「緩やかな糖質制限」です。

これらの三つのグループを2年間にわたり追跡調査しました。その結果、体重減少が最も大きかったのは低糖質食グループでした。低脂肪食グループは全くメリットがありませんね。
脂質関連の調査もされています。調査期間の中でHDLの増加、中性脂肪の減少、総コレステロール/HDL比(LDL/HDL比に近いと考えていいでしょう)の減少などで低糖質食は良い結果を出しています。「ゆるやかな糖質制限」のメリットは大きいといえるでしょう。
ちょっと難しかったかも知れません。また折を見て解説したいと思います。