脂質制限と糖質制限 ~不安に駆られる必要なし~

 学術雑誌 Cell Metabolism(2015年8月13日オンライン版)に発表されたNIH(米国立衛生研究所)傘下の研究者による肥満の男女19人を対象とした研究で,「糖質制限よりも脂質制限の方が体脂肪減少に有効」との結果が示されました。この研究は外来で行うのではなく,参加者に入院(2週間×2回)してもらい,毎日の食事内容から身体活動まで厳格な管理の下で実施されたRCT(ランダム化比較試験)です。
 RCTは論文のエビデンスレベルとしては高く、また掲載の「Cell」も学術雑誌として高い格式があります。糖質制限に批判的な方は「それみたことか」を思われるかも知れません。ですが、以下にあげるようにこの調査は厳格な研究デザインをとったが故に、現実の食生活に当てはめるには限界があるものです。

Cell 糖質と脂質制限比較入院

 

1) 低脂質食(RF)、低糖質食(RC)はともに実験期間の前半に摂取するベースラインの食事(炭水化物50%、脂質35%、タンパク質15%)から800kcalを減らす研究デザインですが、蛋白の摂取量を変えすにこの減少量をそろえるために、RCは結果的に糖質を180g/日近く摂取することになっています。これは脂質が持つエネルギーが9kcal/gであるのに対し、糖質はその半分以下の4kcal/gですので避けられないことです。一般的に厳格な糖質制限は糖質が1食20g以下、「ゆるやかな」糖質制限で1食40g程度といわれています。1日3食としても「ゆるやか」の1.5倍の糖質摂取というのは、低糖質ではあっても種々の「糖質制限」をベースとした食事法とは少し違うのではと考えます。

2) 現在、ダイエットや糖尿病などの改善のために「適切な糖質制限」をしている皆さんは、糖質量を減らしているだけではありません。脂質の量だけでなく、必ずタンパク質の摂取量を増やしています。この調査では「糖質と脂質の比較をする」のが目的なので、精度を上げるためにそれ以外の要素は極力同じにしています。精度を上げようとした結果、現実に営まれている食生活からはかえって離れてしまっている感があります。

3) そして何といってもこの調査結果を私たちの食生活に直ちに当てはめられない理由は、その比較期間が「わずか6日間である」ということです。これは著者も認めていて、「今後の研究に活かす有益な情報が得られた」と書いています。低糖質食では脂質の燃焼は増えていますが、本格的にケトン体をエネルギー源とした代謝が回り始めるには、糖質を控えてから2週間ほどかかると言われていますから、中長期に糖質制限を実践している人の実態を反映しているとは言い難いと思われます。

結局、この論文の内容から「低脂肪食の方が『各種の糖質制限食』よりも脂肪を落とすことができる」と結論づけることは出来ないのです。糖質制限に批判的な方は安易な引用を控えて頂けると有難いですし、「適切な」糖質制限を実践されている方は不安に駆られる必要はないと思います

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